2011/06/16

深夜の映画—ユリシーズの瞳



計画は頓挫した

月を愛でようと思った
明け方まで起きているには
何かしていなくては

月の見える窓の下で映画を見始めたら
途中で疲れてしまった

テオ・アンゲロプロスの「ユリシーズの瞳」

言葉の意味を考えながら
美しいのだけど
それだけではすまされない
荒涼として
余白に多分な意味を含んだ映像を見つめながら
ずしりとした重さと物悲しさの
感覚だけが残り、眠る


朝、続きを見る
サラエボの霧の中で、近しい人たちが殺される場面だった

バルカン半島ををさまよった
マナキス兄弟という映画監督が撮った
未現像の3巻を求めて
映画監督ハーヴェィ・カイテルが
兄弟の足跡をたどりながら
バルカン半島を
ギリシャ、アルバニア、ブルガリア、ルーマニア、セルビア、ボスニア
移動をしてゆく

3巻のフィルムはサラエボにあった

サラエボに住む技師によって現像される
現像が成功した日
霧の中を散歩する家族
霧の日はお祝いの日なんだよ、と云いながら

そして、不意に会った兵士に殺される

「before the rain」という映画を思い出していた
後方にエーゲ海を望む岸壁に建った修道院へ
走ってゆく少女の姿


ドナウ川を渡る巨大なレーニン像や
夜の町に静止する黒い傘をもった人の群れや
国境の、雪の覆う何もない丘を無言で歩いてゆく密入国者や
焼け果てた家を見つめ、舳先に立ち尽くす女や
生き物のようにがれきの中を漂う霧や
廃墟の前で演奏する小さなオーケストラや
泣き果ててくしゃくしゃに崩れたハーヴェィ・カイテルの顔が
一つ一つ、頭から離れない

朝の曇った空に
暖かで、往く手を覆う霧を見る
月はもう、とっくに消えてしまった


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