2013/01/11

雪がやってくる


アンマンで住んでいる地区


スウェーレへ  صويلح
アンマンでも標高が高い土地だ

今年もまた、雪の季節がやってくる

寒いのは分かっている
でも、出かけてしまう

ピアノの音をipodで聴きながら
アパート周辺を散策する

雪だるまをつくる親子
雪合戦に燃えるシャバーブ
物珍しさにこころは浮き足立って
でも、随分と慎重に歩みを運ぶフィリピーノたち
そして、ただ景色を楽しむ、私


家の色がほとんど同じ象牙色だから
白と象牙色と、時々暗い緑が
混じり合う


雪に埋もれてしまった野菜たち
摘み忘れられたオリーブの実
枝に身を寄せる小鳥たち




2日間降り続いた雪も
今日は止んで
青空が見える

雪が溶けだすと
道の角のゴミの山なんかも
見えてきたりする

2013/01/02

新年


年が明けた
新年の景色は随分と美しかった

今年は年越しにワディ・ラムへ往く

欠けた月が出てくるまで
空は星で溢れていた
弱く冷たい風のせいか
星が小刻みに揺れる


岩の陰から月が顔を出す
ごく、小さな石にも影をつくり出すほど
光は明るく細やかで、透明だった

夜、砂漠の上に布団を敷いて、寝る

明けきらないうちに、朝、目覚めてしまう
月が天上よりも少し西で
まだ、キャンプのテントや
枯れた低木や、わずかな緑の葉や
複雑な岩の細かな皺を
照らしていた

少しずつ東の空が白んでくる
辺りを照らす光源が二つになる時
景色が一瞬、青白くなる

日の出を見ようと
岩に登る
いつの間にか、青さは消える


日が昇り始める
太陽の熱をそのまま色にしたような
暖かな色のあらゆる色相が
照らす対象によって少しずつ色を変えながら
岩と砂を染めはじめていた



どこまでも、私の周りには
シンプルなものしかなくて
つまり、自然のものしかなくて
ただ、夜になり、朝になるだけだった




もう11万回以上
私は夜を過ごし、朝を迎えている
それと同じ回数だけ
こんなに美しい景色が繰り返されていたことに
陶然とする

2012/12/29

年納めのアンマン城



アンマン城へ往く
アンマンで一番好きな場所だ
ヨルダンに来た当初
通っていた語学学校の近くだったから
帰りにふらりと寄ったりしていた

観光客に紛れて
誰にも干渉されずに
静かに街を見下ろせる

初めて着た頃にはさっぱりわからなかった
丘の名前と場所が一致してきた
あそこがジャバル・ウェブデ
あそこがジャバル・ヌズハ
あそこがジャバル・フセイン
と、一つ一つ確認したりする


アンマン城があるのは、ジャバル・カラア

西に向かったベンチに腰掛けて
街から立ち上がる小さな音に耳を澄ます
昼のアザーンには
たくさんのモスクからのアザーンが
一斉に輪を描いて遺跡の上を回る

春のような、穏やかな日差しを浴びて
観光客向けのバグパイプ演奏を遠くで聴きながら
ぼんやりする

考えてみたら
今まで来た中で
一番緑が多い
12月だというのに、おかしな話だ

本を読もうと思って
レイ・ブラッドベリの短編を入れてきた
遺跡でSFなんてオツじゃないか、と



でも、ipodのピアノの音が
するすると身体に入ってくる

久しぶりにシューベルトの21番と
ブラームスのバラードやラプソディの小曲集を聴く

気がついたら、もう日が傾き始める
着た道を少しそれて
丘を下る

星座など 石など

アズラックへの道のりにある城を訪れる
3度目の訪問

冬のアズラックは初めてだった
暑い時期の東部は
どこにも遮るものがなくて
日差しがただひたすら身体を刺す

冬のアズラックは風が
きんと冷えて身体をかすめてゆく

どこか高い山の頂上から見上げるような
深い青い空が広がっていた

アムラ城は、好きだ

何もないところにぽつんとある建物の佇まいも
外観からは想像できないような
めくるめく壁画の色と線の豊かさも
壁画のボリュームと題材も
修復の加減も



そして、一番奥の部屋にある天井画を
いつもうっとりと見てしまう
星座図が描かれているのだ

建物の中でも、一番日当りがいい
いくつもの窓から入り込む、冬の傾いた日の中で
山吹色を基調としたした夜空が
ドーム状に描かれている

単純に、その発想が何とも、素敵だ

今度誰も居ない時に往けたら
寝転がって見てみたい





4カ所往った城のうち、壁画があるのはアムラ城だけ
あとの城は、ひたすら石の堅牢さを
誇示し続けている感がある

でも、石積みが好きなので
気になった積み方は、とりあえず写真に収める


それから、猫の要領で
とりあえず高いところには登ってみる

青い空がまた少し、近くなる
地面には、乾いた白っぽい土
それから、黒と白の石積み
その他の、形容しがたい色と形を持った
無数の石たち





2012/12/07

空を仰ぐ



一昨日、雨がやってきた
この時季初めての、長雨

南に向いた窓の外で
灰色の雲が流れていく
灰色にも、たくさんの種類がある

のっぺりとした淡い灰色
たくさんの雨を含んだ、黒の強い灰色
白んだ空に似た灰色

1年半ぶりにやっと飾った
クジラのポスターの中に居るクジラとイルカのいくつかは
空の色と、似ている

雨が降って、また一段と冷えるだろう
それなのに、雨が降ってきたのがうれしくて
青草が出てきてしまったりする


どことなく憂鬱で、どことなく親和性のある
懐かしい空なのだ


音楽がよく、耳に馴染む
きっと音も、水を含んでいる



今日は、冷たい風の吹く雲の多い空だった

出かけるのにバスを拾おうとする
でも、バスはなかなか来なかった
大通りの脇に並んだ建物のすぐ上を
雲の筋が流れていた

そういえば、ここは高地だった

上がりきらない太陽のせいで
空がいつもよりもよけいに
青く見えた

そういえば
久しぶりに、空を仰いだ

2012/11/24

星拾い



雨が降って、アンマンはまた一歩
冬の寒さに近づいている

休日のおでかけ

火星のような、なにもないところに
また、往く

歩くとしゃりしゃり、とした
貝殻を踏むような音がする
風も強くて遠くの人の声が
きれぎれになる

海岸のようだ

でも、目の前には海なんてなくて
ただただ、ひたすら
硬い石のかけらに覆われた
草も育たない土地が
視界の端までずっと、広がる

隕石が落ちた場所、へも、出かける
柔らかな丘が、広く輪になっている

どれが、空からやってきた石なのか

正直、さっぱりわからない
でも、空からやってきたことにして
面白そうな形を
とりとめもなく、拾い続けた
どうするんだろう、と呆れるぐらいの数

ビニール袋にたくさん入れて
持って帰ってきた

そう云えば、砂利道をゆく帰りの車は
ひどくゆれていた

そして、石を洗おうと袋から取り出すと
ところどころ、石は欠けてしまっていた

欠けたところから
外身の焼けただれたような質感からは
ほど遠い
生々しい石の中の、つややかな色が現れる


2012/11/17

そして、無能の人になる



例えば、宮沢賢治の話や詩の中には
たくさんの鉱物や地層が出てくる

黒い露岩、泥炭層
花崗班糲、血紅瑪瑙、
蛇紋の諸岩、巨礫層

その文字が、冷たさや色や硬さや湿り気を持って
文中に浮き上がる瞬間がある

今また、宮沢賢治の詩集などを手に取ると
鉱物図鑑を日本に忘れて来たことを
後悔する

もし、彼がこの石たちを見たら
どうやって、表現に使うのだろう
拾ってきてしまった
名前もよくわからない、石たち

草も生えないような土地には
金属のような硬さと、鋭い音を持った石
陶片に鉄釉をかけたような色だ
時折、姿を現す、周りの景色の厳しさと無縁のまるい石

ただの無機質な、火星の表面のような石の質感なのに
割ってみたら、青い色が走っていたりする

手のひらに乗る大きさの石は
転がっている時には、何でもないものなのに
手に取ってしまうと、その瞬間に
感触とともに、突然意味を持ち出す

石を拾うくせがある

そして、撫でて、見て、握ると
つい、ポケットやバックの中に入れてしまう

そういうものたちが、最近、ふえている

ひなたぼっこの場所を取られた、と
ラファがいじったりしている