2016/07/02

ラマダンの夜と、冴えてしまう身体


もうそろそろ、今年のラマダンも終わる
今年は先週まで真夏のように暑くて
日没はさっぱり来なくて、朝日はあっという間に昇る
なかなか苦しい年だった。

日没、ベランダからアザーンを聴き、家々を眺める。
イフタールの時間になると、車も人も、景色から消えて
食器の擦れる音と、ごくわずかだけれど、会話の断片が、聞こえてくる。

ラマダン中で一番好きな瞬間だ。

なんだかんだ一日一食だけになるので
日中の空腹が災いしてか、幸いしてか、
夜になると、めっきり元気になる。

そして、長い夜が待っている。




仕方ないので、データだけ持っていてiTuneに落としていなかった音楽をまた、聴いたりして
随分とたくさんの音楽に久しぶりに、聴きいった。
Youtubeも馬鹿みたいにたくさん、見た。

音楽が身体に入ってくる時期は、意外と多くない。
どこかでこの感覚を喜んでいる。


どうしようもなくノリのいい曲を数曲聴いて、踊ってしまったりする。
22:00頃。





おっと、と我に返る。
23:00頃。

落ち着こう、もういい歳だ。

騒がしい夜には、部屋を閉め切ってのradioheadのライブはいい。





ちょうどイスタンブールの暴動がニュースに挙っていた。
イスタンブールは、もはや東西の文化が混ざり合う土壌を喪ってしまったのかしら。

ボスポラス海峡から吹き上げるの湿気が混じった、気持ちのいい夜風を思い出し、窓を開ける。


Kings of Convenienceを初めて聴いたのは、スタバだった。
スタバでいい曲がかかっていると、お店の人に訊けば曲名を教えてもらえた。
アルバム全体に、湿度のある音と声が広がる。
いつまでも、飽きずに聴くことのできる静かで、落ち着いたアルバムだ。






外ではアラビー音楽がやまない。
01:30を過ぎても、大音量で生演奏が続くのだ。
対抗してみよう、とあまり多くないアラブ音楽から引っぱり出してきた。



しっとりした、落ち着いたアレンジで、気に入っていた。
この曲は、ウードの先生から教えてもらった。
夫婦で演奏をしてくれる素敵な先生で、
旦那さんのウードに合わせて、奥さんがタールをたたきながら歌っていた。
奥さんは影があって、少しかすれた何とも素敵な声を持っていた。





ハンバートハンバートは3枚も持っていたのに、きちんと聴いたことがなかったことに気がつく。
男女ペアで、男性が歌っている曲もあるのだけれど、女性の声が気になる。
こんな声はどうしたら出るのだろう、とこの曲を初めて聴いたときに思った。
澄んでいるのに、震えている。
随分と沁み入る、歌詞と声だ。

歌を聴いて泣き出してしまった人たちの顔が、ふいに見える。
帰国する人たちに、よく歌っていたのを思い出した。



眠れないから、そんなこと、あんなことが蘇り
次から次へ曲をかけていくと、よけいに眠れなくなる。
03:30頃。朝のアザーンを聴きながら、これはいよいよまずい、と思いつつ
iTuneで眠れそうな曲がないか、探しはじめる。

そこで、タイトル通りの効果を期待して、久しぶりにかけてみる。




兄がよく、寝る前に聴いていた。
久しぶりに聴くと、時代がかって聞こえる。
それでも、途中に盛り上がりもあって、新たな発見があったりした。
誤算だった。
目と耳が、冴え渡る。

04:30頃、いよいよ腹をくくって、白んでゆく空を見ながら、
朝の冷えた空気を吸い込み、ピアノに向かう。
明け方に向く曲のレパートリーなどなくて、結局グリーグの小品をぽろぽろ弾く。
愛らしい、かわいらしい、まとまりのある曲たち。


一通り弾いて飽きる頃には、日が昇ってしまったりする。

鶏の声が響き、小鳥のさえずりが絶え間なくあちこちの窓から入ってくる。

朝日を拝み、眠れなかったことに失望する。

ラマダンの朝は、とても静かだ。
ゴミを回収する車の他は、ほとんど車も走っていない。

もうだめだ、と観念して、いつもの曲を聴く。
ここ最近、ずっとどうにも頭から離れない。
やさしいけれど、芯があるよく響く声と
終止音に納まってくれないギターの和音に耳を傾けながらやっと、ベッドに横になる。






という日も、あったりした、今年のラマダンだった。


もうそろそろラマダンも終わりかと思うと、急に少し寂しくなる。
過去5年、一度もなかった感情に、自分で驚く。

目抜き通りに面した屋上の小屋からは
夜3時を過ぎてもタブレの音が響いていたりした。
眼下の道に人の気配がして、
ラマダン飾りの電飾が、街をいつもより明るくしていた。

断食のせいか敏感になってしまった五感が
夜更けの世界がいつもと少し違うことを教えてくる。


私の部屋である小屋のなかは、
相変わらず、外から見放されたようにぽっかりと真空なのだけれど
いつもよりくすんで厳しさの和らいだ、ぬくもりのある夜が
その果てしない空白を、こちらの気分などおかまいなしに、
好き勝手に浸食しようと
開け放した窓から入ってくる。


ラマダン月のそんな、傍若無人な夜の空気が、なんだかんだ好きだったのだと、気づく。




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