2014/04/08

アンマン城を眺める




3度目の正直
アンマン城の見える丘に
住み始める

もっとも諸々の事情で
1ヶ月だけの部屋だ
次の部屋もまた
アンマン城は拝めるはず

呆れるほど見事な眺めに
毎朝、毎晩、うっとりする

本当は、アンマン城に往くのが好きなのだけれど
アンマン城を眺めるのもまた、悪くない

緑に輝くジャバル・カラアの頂は
小さなアリのような観光客を乗せながら
空中公園のようだ

いつの間にか忘れてしまっていた
人々の暮らしの断片の映像を
丘の上から見下ろす

洗濯物を干すお手伝いさんや
何もすることなく、ただ空を眺める人
タバコを吸いながら徘徊する人
屋上は、どこか特別な場所なのだと、思う

そういえば、屋上に住みたかった
空に一番近い部屋なんて、素敵ではないか

屋上では、地に足着いていない
暮らしもまた、そうなってしまうのだろう
でも、そういう暮らしの基盤が
悪くないと思っていた

幸か不幸かそんな部屋には巡り会えず
今までまだ、屋上に住んだことはない

今、屋上を眺められる部屋にいる、なんて
何だか鳥のようで
いいような、気がする

2014/01/01

初詣



結局、いつかの休日と
変わらない一日になりそうだ

ただ少しだけ
気持ちを入れ替えなくては、などと思い
それから
日本のお正月がどんなものだったか
思いを馳せたりする

別の国で迎える今日の日が
もう5年目に入って
随分遠い昔のお正月の記憶が
よみがえったりした

お正月は寒い、という記憶
親戚回りのタクシーの中で
雨まじりの天気
雲の間から虹が見えたことがあった

今日のアンマンの空は
その時の空と少しだけ、似ている


午前中に用事を済ませ
午後、アンマン城へ往く
もう、初詣のようなものだ

たっぷりピアノ曲を聴き
本を読んで
次にこの街で家を探せるならば
きっとアンマン城の見えるところに住みたい、と
アンマン城から見える家々に
素敵な窓はないか、探したりする

ひさしぶりに音楽を聴いて
ひさしぶりに本を読む

なぜか、重層性について、考える

自分の声の高い音域と低い音域が
突き抜ける音質と下世話な雑音を含んでいるように
かたちづくるものの二つの要素が
どうも、必要なのだ、と

ピアノの音を拾う
鼻歌のようなか細いものでは
生きてはいけない

ひとつだけでは、何かが死ぬ
もしくは、瀕死に

随分前から知っていたはずのことなのに
仕事に追われて、見失っていた

それが思い出せたのだから
悪くない、普通の、休日



ヘッドホンの音を最大にしていたのに
アザーンだけはきちんと
耳の隙間から入ってくる
観念して、ヘッドホンを外す

いくつものアザーンが重なり
輪を描く

アザーンのときのアンマン城は
車の音も、子どもの声も消える
どこか静謐で、美しい
音が見える

2013/12/10

美しいものへの、執着


何かを作ったりする時間など
とうになくなってしまって
それが自分にとってどういう事態なのか
自分でもよくわからないまま
いたずらに時間が過ぎていくのを
そういう時季なのかな、と、思ったりする

でも、時々何かを見て
こんなものが世の中にはあったのか、と思ったり
そういえば昔、好きだったな、と思い返してみたりして
きれいだ、と思う感覚を
ひさしぶりに楽しむことができることも、ある

家は寒いので
カフェでカフェオレをすすりながら
買った画材道具を広げて
絵を描いたりする
仕事をしなくてはいけないのだけれど
どうしても気が乗らないとき、とか

制作はもう、できない心持ちだけれども
絵を描くぐらいは、いいだろう


マニュキュアを使ったりしても
誰も文句を云わない
いいところだ

青いマニュキュアをひたすら乗せて
乾いた後に
細かい模様をひたすら描いて
とにかく精進、とでもいうように
無心で線を伸ばしていく

どうも、過程が大事だったのだ、ということに気づく
描きながら
全然関係のないことを考えたり
線が伸びてゆくこと、それ自体を楽しんだり
色そのものがきれいだ、とか
そんな、どうでもいいことを
あらためて知ったりする

帰りがけにお店のおじさんに
フヌーンだね、と云われて
そんな単語もあったな、と思い出す

随分遠いところに来たものだ

さっぱり出来はよくなくても
色それ自体が美しいことは
いまだに、分かる

それだけでも、満足する

2013/11/12

煙の中のはなし


その人は随分ときれいな人だった
ミラノ育ちだと、云っていた
鼻筋が細くまっすぐで
くるりとしたまつげがかわいらしい

スペインのNGOで働いていて
ヨルダンの田舎町へ
シリア難民支援のため
毎日出向いている

休暇で往ったバリ島が
どんなに素敵なところだったか
丸い目をくるくるさせて話す

バリで買った色とりどり糸がみっしり詰まった
手の込んだ花柄の刺繍のバックが
モノトーンの服によく、似合っていた

長い髪をまとめてみては、またほどく
仕事の愚痴を
勢いに任せて
水タバコの煙と一緒に
吐き出していた

アラビア語はむずかしくてね

つらつらと冗談を交えて
世間話をしていたのに
いつのまにか話は
シリア難民の受け入れの難しさに変わっていた

なぜ日本は難民の受け入れをしないで
お金だけ出しているのよ

お金の回り方だけとっても
いろいろだ


正直、シリアから難民で来た人々が
日本の社会で幸せに暮らせるとは思えない
日本の社会は根本的に
ヨーロッパのような寛容さや多様性は、ない

そんなことを云いたかったけれど
あっけに取られるほどの真剣さで
イタリアが移民を受け入れてきた経緯を
話し続けていたから
そのまま、彼女の話を聞いていた


私の両親だって難民みたいなものよ
ユダヤ人だしね

そうだったか
彼女の熱弁の裏を知ったような気がして
よけいに、言葉を失う

須賀敦子の話を思い出す


熱意もその背景もそれぞれだ
それぞれの人が
それぞれの背景と思いを抱いて
支援という仕事と同時に
当たり前だけれども
それぞれの暮らしがあって
暮らしは、していかなくては生きていけないもので
だから、できる仕事を
できるかぎり、していくしかない

できるかぎり、か


何か、私が今の状態で
私のできることをできるかぎりするのに
どんな手段が、あるのだろうか
思いの溜まる感覚が
腹の辺りで
他のさまざまな気がかりと一緒に
もやもやと、煙たく淀む


冬にはフランスの国境の街で
スキーをする
そのプランを考えるのが楽しみなの
彼女は云うけれど
それもきっと
随分と一生懸命仕事をしているからだろう

中途半端だな、と
また、自分の思いに留まる

煙が濃くて、ちょうどよかった
うつむくしかない自分の姿も
きっと、ぼんやりとしか
映っていなかっただろう







冷え込む


アンマンも冷えてきた
そういえば
ここの寒さは身体の芯に響くことを
思い出す

立派なオフィスに居るのに
相変わらずコートを着込んでいる
UNRWAの学校に居た時と
変わらない

オレンジ色のコートを
もう一度略奪して
とにかく身にまとう色だけでも
暖かくしておく


家の居心地が悪くて
今日もまた、カフェへ往く
ぼろぼろになった本を読みながら
でも、どこか集中できなくて
隣の席のカードゲームを
ぼんやりと眺める

参ったな、と、思う
どこへ往っても寒いのだ

寒いのは分かっているのだから
どうにか、暖かくする方法を

ラファちを膝に置いておきたい、とか
ガスストーブを抱えておく、とか
冷たいピアノの鍵盤に
姿勢を正して向かう、とか
もこもこの家履き靴を買う、とか

どれもこれもないので
参ってしまう

2013/10/30

ぐるぐるまわる


ものがぐるぐると、まわる
ことがぐるぐると、まわる
そして、あそこには、まえそこにあったものあって
そこには、まえここにあったことがいって
ここにはまえあそこにあったものことがくる

本来そこにあるべきなのかどうか
本来ここに、あそこにあるべきなのかどうか
もう、わからない

でも、わのなかに、ある

だから、わからはずれなければ
いつかはあるところに
もどってくる

やってくる

さまざまなものもそうだし
さまざまなこともそうだし
さまざまなこころもおそらく、そう


ぐるぐるのなかにいる

ふかんのしてんはないのか
とりのように

たかくとぶとりも
そういえば、ぐるぐるまわっていたりする
わたりどりだって
ぐるぐるまわる

ぐるぐるまわることを
しっているのであれば
それだけでいいのかも、しれない

でも
どうしてまわっているのか
しりたいときもある

どうしてまわるのか、と
ぐるぐる、かんがえる


2013/09/16

秋の月


そして、ヨルダンに戻ってきた

そして、という言葉の中には
とてつもなくいろいろなことがあって
だからこそ、そして、としか
書きようが、ない

アンマンの空は今朝
いよいよ秋の気配を増す
標高が高いことを思い出させる
低くてふわふわした雲が
建物の向こう側に浮かんでいた

朝の空気が、冷たかった

仕事を終えて家に戻る
最近食事を作る気にもならなかったのは
たぶん、心の余裕がなかったからだ

腹は減るが、そんなことよりも
目の前のやらなくてはならないことが
多かった

先週買ったブロッコリーが腐ってしまって
料理などしていなかったことに気づく

野菜が食べたいな、と

ひさしぶりに、八百屋へ往く

葉ばかりのネギや、色褪せたトマトや
いろいろな種類のぶどうを
今更ながら物珍しいような気持ちで見る

でも結局
なるべく小さなキャベツと、たまねぎを買って
帰ることになるのだ

もう慣れてしまった
つるつるの坂道を下ったり登ったりして
ぶらぶらと家に戻る

半分ぐらいの、白い月が出ていた
透明なぐらい白い、よく冴えた、月

また、月の世界にやってきた
月の存在が、随分と大きな土地
そして、月を見ながらぶらぶらと歩くことが
許される土地

やっぱり、悪くない

慣れ親しむことを、また、許されたようなきがする