2022/07/17

大雨と、音楽を聴く時間

 

雨音がひどい時は、イヤホンのノイズキャンセリングで音を消す。

無声映画みたいになる。

もはや暴力的な雨水が、ひどく跳ねたり叩いたり

踊ったり溜まったりするのを、どこかの映像のように、眺める。

漏れ入る音も気にならなくなったら、

クープランの墓、を、ひたすら繰り返し聴き続ける。


実のところ、クープランの墓と激しい雨は、さっぱり似合わない。


第一次世界大戦で亡くなった友人や知り合いを思いながら

作られたこの楽曲は、

どことなく乾いた晩夏のような部分もありつつ、

大方はどちらかと言ったら瑞々しくて、そこには

小川や露のような、爽やかさがある。





あまりに雨がひどい時、時々無性に聴きたくなる。

目の前のひどい雨の情景とのギャップを、どこかで期待しながら。


一日中、仕事の間もずっと、聴き続けていた。



それから、久々に音楽スイッチが入って、

気にかかっていたけれど、確認できていなかったアーティストの

新譜や聴き逃していた曲を、apple musicで片っ端から再生する。


長めの移動の時は、この作業をしがちだ。

特に、バスがいい。

たぶん、景色が流れ去っていくのと

音楽が流れていくのには、いつも重なり合う何かがある。





1:ホセ・ゴンザレス Visions


ホセ ゴンザレスの歩む感じと声の重なりの組み合わせは

お家芸なんだけど、やっぱりとても、いい。








2:Rhye   Holy (Frank Wiedemann remix)


絶対打てないリズムを入れてきていて、

一度気になると聴き続てしまう。

これのPVはあまり良くなかった。

アラブ人が馬を映像で使うときの用法に似ていて、

ソワソワするから、音源だけ。




3: Joni Mitchell   River (Archives Vol.2より)

イントロが大好きで、よく口ずさんでしまう曲なのだけど、

このバージョンには、最後の最後に、クリスマスソングの断片が入っている。

ホルンの音が、こんな風に淡々と柔らかく、入れられるんだと。





4: Predawn  The Bell


一貫してとても親密な音作りの最後、

いろいろあったけど、とりあえず家に戻ってきた、という

どこか、慰められるような、収まりのある曲。

なんかこのアルバムは、全般的にひどく素直な音作りなのだけど、

最後のこの曲の素直さが、よけいに、あとを引く。





5: James Blake  Wind down


眠りにつくための音楽アプリ、Endelのために作ったアルバムだけに、

いつもの凝った打ち込みは影を潜めているのだけど、

もともと歌一本でもすごくいい曲を作っていたから、

シンプルな音の環境音楽的なものも、

普通にいいという発見。





6: シューベルト ピアノソナタD894


特に1楽章は、どうやって聴いたらいいのか、

時々分からなくなる楽曲だった。

やっと、ずいぶんしっくり来るピアニストを見つけて、

いつまでも聴いていられるようになった。





7: エリオット・スミス No name #3


レマスター盤で、聴いたことなかったアルバムの中から。

とてもシンプルなギターとメロディなのだけど、

よけいに、拗ねたような歌声が、じわじわとこちらにやってくる。

深夜とエリオットの、この親和性の高さは一級品なのだけど、

とても危険だったと、気がついた時には遅かった。

たぶん、一番ボロボロな時の(死ぬまでずっとボロボロだったんだけど)

ライブ映像から。





8: Nina Simon   July tree


小さくて、童謡か数え歌みたいにシンプルでかわいい歌。

ニーナシモンじゃないと、

こんな味わい深い歌には、ならないだろう。

そういえば、今はJulyだった、と。






まだまだ、日本には大雨の日がたくさんやってくるのだろう。

その度に、また無声映画ごっこをして、

目の前の土砂降りに

閉じられた、たった一人の音の世界を享受する時間が

たらふくある。

雨が強ければ強いほど、静かで染み込む音がいい。

イヤホンだけは、性能のいいものを持っているのは、

これをするため、ただそれだけだ。




けれども、移動先でいいスピーカーと、静かな広い空間があった。

深夜勝手に、人々の寝静まった頃合いを見計らって、

復習のように、イヤホンから聴いていた音楽を

空間に放って、聴き続けていた。

音が、耳だけではなく、身体全体から、静かに入ってくる。





朝になって、ちょっと寝不足のまま、犬の散歩に出かける。

雨の上がった草原に、雨粒の雫をたっぷり湛えた草が

風に揺れる。






夜のうちに、いろんな音を聴いたけど、そして、雨も上がったけれど、

でも、頭の中をクープランの墓が流れていた。


いつか、広い草原に大音量で、あの曲を流してみたい。


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