人の温かみが、身に沁みいる、一時帰国だった。
なんて、みんな優しいんだろう、と
バカみたいに、ありがとうございます、ばかり
繰り返していた。
それしか、云えることが、なかったからだ。
そして、同時に、
全く何も返せるものがない、という事実に、
毎日、呆然としていた。
世の中には、感謝の数と同じぐらい、もしくは、それ以上に
いろいろなものを、ちゃんと与えられたり、返せる人たちがいる。
どうしたら、そんな人になれるのか、
私は、さっぱり分からない。
思い返してみると、自分のことばかり考えていた。
何かしら、表現の仕事をしていた昔は、特に、
常に自分の中にある、くだらなくて卑小な思いを、
どうやって、普遍的ななにものかに昇華できるのか、ばかりを
考え続けていた。
奇しくも、今、
私は、私ではなくて、他の人のための何かしらになる、
かもしれない仕事を、させていただいている。
それでもなお、この仕事を通じて、どんな人間でありたいのか、を
どこかで考えていたけれど、
最近、そんなことを考える余裕がなくなってきて、
やっと、欲が少しだけ、なくなってきた。
それは、とても、いいことのように、思える。
去年の冬、ワディ・ラムで、大量の毛布に包まって、
たくさんの流れ星を見ながら、
ありとあらゆる欲しいものを
思い浮かべて、願っていた。
すざまじい欲だな、と、
冷え切った頭が、冷静になって
ものすごい自己嫌悪に陥る。
今自分のために願ったものが、
流れ星と一緒に流れていって
私の知らない、どこかの誰かに、届いたら。
それは、何とも素敵な考えだった。
その夜、とことん自分の欲しいものを見つめた。
どれもこれも、叶わなくて、なかなか切なかった。
それから、それらが、
知らない誰かに届くことを妄想した。
勝手に、少し幸せな気持ちになった。
何にもなくてからっぽだし、
物理的に生み出せるものはないから、
私は、とにかく、
たくさんの、私の知っている、私の知らない、お世話になった方たちへ
漠然とだけれど、何か素敵なことがあるように、
願いたいと、思っている。
自分が細くて白い糸みたいになって、
しまいに、なくなってしまうぐらい、
本気で、ただただ、願いたい。
そんな靄のような願いについて、思いを馳せるぐらいなら、
真面目に仕事をしろ、という話だけれど。
願うことで、ふわっと幸せな気持ちになったならば、
つまるところ、それは自分のため、ということになる。
結局まだまだ、私は、欲深い。