だって、ロバのおはなしだから。
実に10年ぶりに往った古本屋で、
即決する。
子ロバはアラビア語で、コル、という。
この言葉の響きが、とても好きだ。
跳ねるように歩む、子ロバ特有のしぐさと動きを
よく表しているように、思える。
この作者もきっと、ロバのことがすこぶる、好きなんだろう。
初めて会ったロバとロバは、鼻をすりあわせることとか、
子ロバどうしが一緒に、走りまわるとか、
誰かのために、とてもがんばるところとか、
ロバのロバらしさを、よく知っているから描ける、描写がある。
でもなによりも、この絵本を
とてつもなく、愛おしく感じたのは
安心する絵本のお話の作り方を、きちんと踏襲しているところだった。
話の展開が明確で、単純であること。
そして、話のきっかけとなる人物が、
ちゃんとお話のはじめと最後に出てきたり、
ちいさな、一見どうでもいいと思えるような描写が
丁寧に描かれていたり、
ことばの繰り返しが、大事なところにはきちんと使われていたり、
視点がつねに、子ロバから離れなかったり。
そして、石井桃子によって、大切に選ばれた、言葉がある。
歳ばかり取ってしまったわたしでも、
しみじみといいなぁと思うのは、
限りない、この安心感ゆえだ、と、気づく。
親御さんが子どものために、と
何か選んであげるのであれば、
発想力を沸き立てるものも素敵だけれど、
こういう、限りなく安心する、
ささやかなものへの愛情に満ちた本の良さもまた、
子どもは敏感に感じられるだろう。
奇しくも、似たような2頭のロバの話を
昔絵本で作ったことがあった。
「黒いロバ」、というタイトル。
孤独な黒いロバが、ふと1頭の白いロバと出会う。
飼い主に連れられた白いロバは、
結局は、往ってしまう、という話。
ロバが好きすぎて、大量に描いたロバの絵を
部屋に吊るしていた。
友人が来て、勝手に絵の順番を入れ替えて、
話を作り始めた。
その話が気に喰わなかったので、
では、自分で作ろう、と、作った絵本だった。
手持ちの絵を使って作れる話が他に、思いつかなかった。
他人の好みは分からない。
アラビア語と日本語両方で話を書いてあるので、
プレゼントにあげていたら、
どうも、気に入っていただける。
その話のロバたちも、
鼻をすり合わせていた。
わたしもまた、そのロバのしぐさがとても、好きだ。
もしロバがあんなに大きな声で哭かなかったら
絶対ロバを飼っているのに。
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