日本のお盆がいつからいつまでなのか、分からなかった。
でも、ある朝、日差しの色が明らかに変わって
季節が移りかわりつつあることを、知る。
日差しがたっぷり入る屋上だからこそ、なのかもしれない。
まだまだ日中は暑さが厳しいけれど
夜の風も、どこか纏う空気を変えて
窓から流れ込んでくる。
そして最近、新たな本を手に入れたり、
眠っていた本を再び手に取る機会が増えた。
単純に、読書欲が増しているからで、
一足先に読書の秋、というところだ。
なかなか心穏やかではないことが多かったせいか
その在りようを変えてくれる可能性のある本か、
日常にはないものを見せてくれる本を、
本能的に探す傾向にあったのかもしれない。
テンポよく、さらっと気分を変えることを期待するならば、
短編が、いい。
短編ならば、トーベ・ヤンソンを。
半ばの狂気と、辛辣な視点と、研ぎすまされた感性が
深夜の感覚にじわじわと刺激を与えてくる。
過去にしがみつく女たち、
記憶を勝手にすり替えてくる古い知人
都会の歪んだ倫理を押し付けてくる少年、
人の未来が見えてしまうから誰とも交流を持てない女
身近な人物への洞察力と、本人の想像力と、深く自身を見つめる自省の念が
おそらく、話の根幹でひしめき合っている。
続けてどんどんと短編を読み進めてしまうのはもったいないので
眠る前に一編ずつ読んだりしている。
記憶や情報の整理は、眠っている間になされるらしいから、
私の中には、離島でたった一人、一夏を過ごすような
ヤンソンの潔い孤独が息づいてくれないか、などと
他力本願な期待をしたりする。
朝は、心を落ち着かせようと、論語を読んだりしている。
全く、これもまた他力本願甚だしいのだけれど
子曰く、約をもってこれ失する者は、鮮なし。
子曰わく、君子は周して比せず、小人は比して周せず。
子曰く、惟だ仁者のみ能く人を好み、能く人を悪む。
子曰く、中庸の徳たるや、其れ至れるかな。民鮮なきこと久し。
現代語訳がすぐ後ろに書かれているので
それと照合しながら、読んでいくのだけれど
大方の言葉に、一つ一つ、
はい、その通りです、すみません、ごめんなさい、
と一人勝手に謝ることになる。
徳や仁からは、ほど遠く、ましてや中庸になどなれるはずもなく
煩悩と混乱の世界に、往かなくてならないのだな、と
本を伏して、ドアを開け、階段を下りることになる。
もっともこれは私の心の在りよう次第なので、
自分が悪い、ということなのだけれど。
孔子がすごいのは、
自分よりも徳や仁の高い人物とつきあいなさい、と云っているところだ。
人を選べと。
徳や仁はなくとも、面白い人たちはたくさん居るし、
人を選んでいたら仕事が成り立たないので、
結局、ますます、心の在りようは、穏やかではなくなってしまうようだ。
先日、たまたま牛テールが手に入ったので
ひたすらに煮続けていた。
ピアノの短い曲を弾いては、灰汁を取り、
またピアノを弾いては、灰汁を取る。
そんなことをしながら、ふと向田邦子の本を思い出す。
練習にも飽きると、だらだらしながら、ちらちらと短編を開く。
作者の人となりが、反省しつつ、開き直りつつ
文章のそこここにちりばめられている。
雑誌への寄稿が集められているので
題材はそれぞれなのだけれど
どの話もその部分部分が頭の片隅にしっかり残っていて
仕事の合間にふと、思い出したりして
にやにやしたり、感慨にふけってしまったりする。
一番困るのは、食べ物に関する文章で
ごま油をしっかり使ったシンプルな炒り卵や
海苔弁当や豚鍋や
わかめの油炒め
詳細に書かれた調理法や食べ物の描写のすべてが
在外の身としては、完全に嫌がらせになっている。
海苔吸いの調理法の最後に
もったいつけてでも小さな椀に盛り
おかわりはさせない、という下りがある。
本人の食をふるまう時の小粋な技に
ふうっと深いため息をつくことになる。
結局、牛テールは
なんだか味がうまく納まらないまま
お客人たちの腹の中に入っていった。
余りがないのでも、もったいぶっているのでもなく、
味が納まらないから
おかわりをお勧めできなかった。
まだまだ、人をもてなすまでの技量はないようだ。
2 件のコメント:
ときは1986年。
村上春樹さんと奥さんが37歳から40歳になるまでの約3年間、ヨーロッパに滞在していたときの日記。
エッセイ。これがね、すごく読みやすい。あぁ、村上さんはこうやって生活しながら、ノルウェイの森を生み出したんだなー。って。夫妻はギリシアとイタリアをいったりきたりしながら生活、その細かい描写が実に心地いい。特に、食べ物。村上春樹さんはとっても料理がうまいんだろうな。魚の調理の描写なんか、本当におみごと。七輪で魚を炭火焼にしてしょうゆをたらす・・・とか。
あぁ、ブルキナファソでも、魚を調達して、やってみようかな!て思う。
晴ちゃん、すんません。さっきの投稿、なぜか前半が入っていなかった!!
向田さんの本の紹介で思い出した、ぶち姐おすすめ旅エッセイです。
村上春樹さんの「遠い太鼓」でした。
ではでは。
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