2011/03/05

彼女は、認識する


おそらく、彼女だと思うのだけど

彼女は私を認識している

なぜなら
私が足繁く彼女のもとに通い
彼女とじっと眼を合わせようと
しゃがんだり
柵から身をのりだしたりして
必死になっていたのに
彼女が気づいたからだ

彼女は私が近寄ると
むくっと起きて
さっきまでねそべってなめていたバナナの皮を
私に投げてくる

時々、眼を合わせる
時々、じっと見てくる
時々、知らないふりをする
でも、私は彼女を見つめる

今日は、共同作業をした

えさをあげないでください

と書かれた看板が
彼女は気になっていた

私に投げるはずだったぞうきんが
看板にひっかかってしまった

ぞうきんを取ろうと
客たちの投げ込んだペットボトルやストローを使って
ぞうきんを取ろうと躍起になる
時々、私の顔を見る
私も、手が届かない

だから、折れた枝を拾って
彼女に手渡しした

彼女は器用に
それほど丈夫でもない、枯れた枝を使って
ぞうきんを取った

それから

えさをあげないでください

という看板を
いじりはじめる

きっと、目障りだったのだ

なぜなら今日も
横にいた女が放ったコーンアイスを
紙を剥いで食べて
その後、冷たさのせいで全身に鳥肌をたてても
紙についたチョコレートを
懸命に舐めていたから


柵に顔をくっつけて
腕を精一杯伸ばして
看板に枝をひっかける
横長の看板は
右へ左へ、くるくると回る

彼女の手の届くところまで
看板の端がくるように
私も精一杯腕を伸ばして
看板の反対の端を押す

でも、結局
看板を抜いて
彼女の得意の、ほうりなげ、をすることはできなかった
きっと、看板のポールは思ったよりも長かったし
看板は、使い捨てのコップや
熟れていないバナナや
咬みすぎてくしゃくしゃになった青いプラスティックの容れ物や
ペットボトルのキャップや
ぞうきんよりも
よほど、重かったからだ


でも、看板は裏向きになって
もう、何を意味するのか、分からない

私は彼女にえさをあげない
あげないままで築ける関係を模索する

彼女は私が帰るすぶりをすると
いつものように
下あごをだしながら
ぷっとつばを飛ばしてくる

私はそれを、
親愛の情だと、
思っている


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