2022/07/28
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2022/07/17
大雨と、音楽を聴く時間
雨音がひどい時は、イヤホンのノイズキャンセリングで音を消す。
無声映画みたいになる。
もはや暴力的な雨水が、ひどく跳ねたり叩いたり
踊ったり溜まったりするのを、どこかの映像のように、眺める。
漏れ入る音も気にならなくなったら、
クープランの墓、を、ひたすら繰り返し聴き続ける。
実のところ、クープランの墓と激しい雨は、さっぱり似合わない。
第一次世界大戦で亡くなった友人や知り合いを思いながら
作られたこの楽曲は、
どことなく乾いた晩夏のような部分もありつつ、
大方はどちらかと言ったら瑞々しくて、そこには
小川や露のような、爽やかさがある。
あまりに雨がひどい時、時々無性に聴きたくなる。
目の前のひどい雨の情景とのギャップを、どこかで期待しながら。
一日中、仕事の間もずっと、聴き続けていた。
それから、久々に音楽スイッチが入って、
気にかかっていたけれど、確認できていなかったアーティストの
新譜や聴き逃していた曲を、apple musicで片っ端から再生する。
長めの移動の時は、この作業をしがちだ。
特に、バスがいい。
たぶん、景色が流れ去っていくのと
音楽が流れていくのには、いつも重なり合う何かがある。
1:ホセ・ゴンザレス Visions
ホセ ゴンザレスの歩む感じと声の重なりの組み合わせは
お家芸なんだけど、やっぱりとても、いい。
2:Rhye Holy (Frank Wiedemann remix)
絶対打てないリズムを入れてきていて、
一度気になると聴き続てしまう。
これのPVはあまり良くなかった。
アラブ人が馬を映像で使うときの用法に似ていて、
ソワソワするから、音源だけ。
イントロが大好きで、よく口ずさんでしまう曲なのだけど、
このバージョンには、最後の最後に、クリスマスソングの断片が入っている。
ホルンの音が、こんな風に淡々と柔らかく、入れられるんだと。
4: Predawn The Bell
一貫してとても親密な音作りの最後、
いろいろあったけど、とりあえず家に戻ってきた、という
どこか、慰められるような、収まりのある曲。
なんかこのアルバムは、全般的にひどく素直な音作りなのだけど、
最後のこの曲の素直さが、よけいに、あとを引く。
5: James Blake Wind down
眠りにつくための音楽アプリ、Endelのために作ったアルバムだけに、
いつもの凝った打ち込みは影を潜めているのだけど、
もともと歌一本でもすごくいい曲を作っていたから、
シンプルな音の環境音楽的なものも、
普通にいいという発見。
6: シューベルト ピアノソナタD894
特に1楽章は、どうやって聴いたらいいのか、
時々分からなくなる楽曲だった。
やっと、ずいぶんしっくり来るピアニストを見つけて、
いつまでも聴いていられるようになった。
7: エリオット・スミス No name #3
レマスター盤で、聴いたことなかったアルバムの中から。
とてもシンプルなギターとメロディなのだけど、
よけいに、拗ねたような歌声が、じわじわとこちらにやってくる。
深夜とエリオットの、この親和性の高さは一級品なのだけど、
とても危険だったと、気がついた時には遅かった。
たぶん、一番ボロボロな時の(死ぬまでずっとボロボロだったんだけど)
ライブ映像から。
8: Nina Simon July tree
小さくて、童謡か数え歌みたいにシンプルでかわいい歌。
ニーナシモンじゃないと、
こんな味わい深い歌には、ならないだろう。
そういえば、今はJulyだった、と。
まだまだ、日本には大雨の日がたくさんやってくるのだろう。
その度に、また無声映画ごっこをして、
目の前の土砂降りに
閉じられた、たった一人の音の世界を享受する時間が
たらふくある。
雨が強ければ強いほど、静かで染み込む音がいい。
イヤホンだけは、性能のいいものを持っているのは、
これをするため、ただそれだけだ。
けれども、移動先でいいスピーカーと、静かな広い空間があった。
深夜勝手に、人々の寝静まった頃合いを見計らって、
復習のように、イヤホンから聴いていた音楽を
空間に放って、聴き続けていた。
音が、耳だけではなく、身体全体から、静かに入ってくる。
朝になって、ちょっと寝不足のまま、犬の散歩に出かける。
雨の上がった草原に、雨粒の雫をたっぷり湛えた草が
風に揺れる。
夜のうちに、いろんな音を聴いたけど、そして、雨も上がったけれど、
でも、頭の中をクープランの墓が流れていた。
いつか、広い草原に大音量で、あの曲を流してみたい。