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雨が降って、アンマンはまた一歩
冬の寒さに近づいている
休日のおでかけ
火星のような、なにもないところに
また、往く
歩くとしゃりしゃり、とした
貝殻を踏むような音がする
風も強くて遠くの人の声が
きれぎれになる
海岸のようだ
でも、目の前には海なんてなくて
ただただ、ひたすら
硬い石のかけらに覆われた
草も育たない土地が
視界の端までずっと、広がる
隕石が落ちた場所、へも、出かける
柔らかな丘が、広く輪になっている
どれが、空からやってきた石なのか
正直、さっぱりわからない
でも、空からやってきたことにして
面白そうな形を
とりとめもなく、拾い続けた
どうするんだろう、と呆れるぐらいの数
ビニール袋にたくさん入れて
持って帰ってきた
そう云えば、砂利道をゆく帰りの車は
ひどくゆれていた
そして、石を洗おうと袋から取り出すと
ところどころ、石は欠けてしまっていた
欠けたところから
外身の焼けただれたような質感からは
ほど遠い
生々しい石の中の、つややかな色が現れる
例えば、宮沢賢治の話や詩の中には
たくさんの鉱物や地層が出てくる
黒い露岩、泥炭層
花崗班糲、血紅瑪瑙、
蛇紋の諸岩、巨礫層
その文字が、冷たさや色や硬さや湿り気を持って
文中に浮き上がる瞬間がある
今また、宮沢賢治の詩集などを手に取ると
鉱物図鑑を日本に忘れて来たことを
後悔する
もし、彼がこの石たちを見たら
どうやって、表現に使うのだろう
拾ってきてしまった
名前もよくわからない、石たち
草も生えないような土地には
金属のような硬さと、鋭い音を持った石
陶片に鉄釉をかけたような色だ
時折、姿を現す、周りの景色の厳しさと無縁のまるい石
ただの無機質な、火星の表面のような石の質感なのに
割ってみたら、青い色が走っていたりする
手のひらに乗る大きさの石は
転がっている時には、何でもないものなのに
手に取ってしまうと、その瞬間に
感触とともに、突然意味を持ち出す
石を拾うくせがある
そして、撫でて、見て、握ると
つい、ポケットやバックの中に入れてしまう
そういうものたちが、最近、ふえている
ひなたぼっこの場所を取られた、と
ラファがいじったりしている
ヨルダンで一番好きな土地はどこか、と聞かれたら
ここだ、とすぐ答える
去年のちょうど今頃
同じ土地に来た
その時は、ヨルダンで初めて、目の前に広がる
溢れる緑に、胸がいっぱいになった
私は緑と湿気に飢えていて
それは、あたたかく、湿気ばかりの国への懐かしさのせいもあって
しばらく、身体いっぱい、空気を味わっていた
الحمهとしか、バスには書かれていないヤルムーク渓谷の端
往くのに、3カ所のチェックポイントを通過しなければいけない
ゴラン高原のイスラエルと、ヨルダンの狭間だ
去年はまだ、秋の高く青い空の下にあった
そこだけが艶やかな緑に覆われていた
今年は、今季最初の雨雲が立ちこめていて
初冬を思わせる空だった
ゴラン高原は黄色く枯れた草で覆われている
それでも、その麓の小さな小さな町だけが
トウモロコシやヤシやブーゲンビリアの真っ赤な花に
色が踊るようだった
少し手前にはイスラエルのシナゴークが見える
いつかの温泉保養地
結局今年も、温泉には入れなくて
渓谷の川を眺め
草むらのロバを見て
ゴラン高原を眺めながらピクニックをするヨルダン人を見て
それから、私もゴラン高原を見上げる
厳しい岩肌とその土地を隔てる
小さな川
どことなく、育った街の端を流れる川の景色と重ねる
水と緑がある
だから、桃源郷だなんて、思うのだ
たったそれだけの理由だと、分かっている
でも、それがとてつもなく私には大事なものなのだ、と
認識するために、来たのだと、知る
ここのところ、二度ほど
ヨルダンの地方の遺跡を回る小さな旅に連れていってもらった
例えばシリアの町がよく見える
国境の町にある
例えば道もないような土漠の中の
何もない土地にある
ローマ時代からウマイヤ朝頃までの遺跡の数々
ヨルダンの歴史は、何度も聞いても複雑で
未だにはっきりと分かっていない
ただ単に、覚える気がないのだろう
でも、大小さまざまな遺跡が
国の全土にある
大きなものなら保存の手も入り
門番付きの金網に囲まれる
ただ、多くの遺跡は、大して守られもしないまま
若者のキャンプ地になったり
落書きの対象になったりして
日本の感覚のままだと随分と驚かされてしまう
正直なところ
もちろん遺跡を探訪するのも面白いけれど
そこへ至るまでの景色の方が好きだ
ここへ来て、ほとんど
何もない土地と
音のない場所を
たくさん見た
ただ、硬い玄武岩の大きな石の塊が散らばっていたり
わずかな草が生えていたり
小さな小鳥が2,3羽空高くを飛び去っていったり
遠くで車の音がしたりするぐらい
ひと気のない土地はいくらでもあって
その多くは、水がほとんどなくて
ぽい、と放り出されたら
それが、時間の差はあれど
直接死と結びついていることを
意識させられる
ただ、そんな土地は
そこはかとない魅力がある
なに、安全な車の中から見ているからだろう
そんなところにぽつねんと
遺跡があったりする
過去の人々は
どうやってこんなに生きていたのだろう
砂に白くなった生活の跡を見ながら
想像する