2012/03/31

السوسنة السوداء في عراق الامير


仕事が早く終わったので
少しだけ、遠出をする
イラク・アル・アミールという
2世紀頃の遺跡を目指す


ただ、本当の目的は遺跡ではない
今の時季にしか見られない花を
見ておこうと思い立った


野生で咲くアイリスの様子が見たかった




ワディ・シールという土地からさらに
バスを乗り継ぐ
バスはずっと、緩い渓谷の沢から一定の距離を保って
起伏の大きな山並みの斜面に沿った道を往く


遺跡は、山並みの遥か遠く先まで見渡せる
広く小高い土地に、ぽつん、とあった


ヨルダン人の家族などが
車でピクニックに来ている
やぎが草を食み
産まれたばかりの子やぎが跳ねる


遺跡の敷地にはアイリスは咲いていない




そこから少し坂を登った
岩肌の見える斜面に
たくさんの小さな花々と一緒に
アイリスも咲いていた



ヨルダンの国花が、ブラックアイリス

ジャーマンアイリスの一種なのだと思う
形は同じだが、他のジャーマンアイリスのように
黄色い筋や、色の濃淡はない
濃い黒紫色の
他の花々のような華やかな春の色とは異なる
強いぐらいの色の濃さが
遠目からでも目立つ


ただ、よく足元を見ると
タイムやらラベンダーやらウイキョウやら
ハーブ、と呼ばれているものが
いたるところに生えている
それから、野生のアネモネ、アザミ


静かな土地だから
色々な種類の鳥の鳴き声と
ミツバチの羽音だけが響く







2012/03/30

屋外

春が来た、と思ったら
雨が降ったり寒くなったり
随分と不安定な日が続いている


三寒四温なんて、日本の言葉だと思っていたけれど
ヨルダン、少なくとも
アパートメントのあるアンマンでは
この言葉がぴったりと当てはまる


でも、今日から時差も夏時間に戻る
確かに日は長くなった気がする


身体は時間と光の関係を
思いのほか記憶しているようだ
だから、外を見る度に
微妙な違和感を感じてしまう


金曜日
春らしい景色を見に往きたかった
でも、ずっと悪いままの具合が
往く気を削いでしまう


だから、仕方なく買い物などへ、往く








アーモンドの花が咲く
それから、小さな猫たち


おそらく雨の降る時季が決まっているからだろう
外に家具を置きっぱなしにしている様子がよく見られる


風は冷たい
黄色や白のかわいらしい花々は
震えるように揺れている
雲が思いのほか早く流れていって
作る影にショールを首元までたぐり寄せる








2012/03/11

歩く、日

今日という日、歩くことにした
だからなんだ、と
自分でも思う

不在だった負い目や
想像力の限界
無意識に心へ働く制御を感じながら
去年と同じように
また、今年も遠い土地で
歩くことにした

春の気配に包まれた薄曇りの空と
たくさんの黄色い小さな花

去年と変わらないのは
ひどい砂埃と横着で無鉄砲な車と
うっすらとかく汗

結局のところ
こんなところでどうしたらいいのかわからないのだ
それは、去年もそう、今年もそう

ただ、歩いている間
例えば、ある、自分に似ていた人のことを思う
今晩の食事をどうしようか、とか
あの仕事、やりたくないな、とか
なんでもっといいことが云えなかったんだろう、とか
お店にあったあの服がやっぱり欲しいな、とか

きっと、そういう人たちが居た
だから、会ったこともない人たちのことを、考える

それから、自分のことを少し、考える

誰にとっても意味なんてない
ただ、歩きたいから、歩く




2012/03/03

窓の外についての雑記



そんなわけで、一日中家に居るから
天気の移り変わりや
外で動くものを観察するそれぐらいしか
変化のあることがないのだ


分かったこと


高地なので雲の中に入る
雲の中に入った時の方が
暖かいし、雨も雪も、降らない


この土地صويلحでは、基本的に風は西から東に吹く


鳴った雷は必ずどこかに落ちているよう


薄い雲が空を覆う時が
一番明るい


周辺に住む人々も、やむをえない時と
雪合戦の他は、家に引きこもっている


当然、傘などささない


そして
小鳥は意外と、雪の中でも平気だ


などなど
どうでもいいことごと

繕う



3日目だ
4日前の夜から降り出した雪のおかげで
ごく家の周辺の他は
移動ができなくなっている
雪など大して降らないはずの街だから
降ってしまうともう、どうにもならない


仕事も休み


こんな時でもないとやらないだろう、と
破れたエプロンを直す


あまりに寒いものだから
ガスストーブの前に立って暖を取っている
立ったとき、火の元に近い生地が痛んで
少し力をいれるとやぶれてしまうようになってしまった


ガラス窓はすぐ結露でぼやけてしまう
曇ってはスクレーパーで水をよけ
外を眺めながら、半ば途方に暮れて
ちくちくと縫う


ぼんやり縫っていたから、こんなものだ
手元なんてあまり、見ていない


気持ちのどこかは
違うところが気になっていて
それはおそらく外の何か、なのだろうけど
そのせいで、何をやっても身が入らない


雪の日とは、そういうものなのだと、気づく