2019/08/09

彼らの暮らしと、話の断片 8月2週目


ヨルダンの夏休みは長い。
6月2週目あたりから、8月いっぱいまでお休み。
その間、キャンプではサマーアクティビティをしていた。
昨日が最終日で、発表会をする。

こじんまりとしていたけれど、
男の子たちが行儀よく椅子に座れないのも、日差しが強いのも、
女の子たちがよく手伝ってくれたのも、毎年通り。

今年も開けたことが、ありがたい。

オープンデーのために手伝いに来てくれていた、
キャンプの元同僚のお宅へ、帰りに少し、寄らせてもらう。



1件目:ザアタリキャンプ District 2


過去にも二度ほど伺ったことがあったけれど、
2年前に生まれた子に会ったことがない、ということは
2年以上、伺っていなかったことに、なる。


お宅へ入ると、スタッフのお母さんと
スタッフの奥さんのお母さんがいた。
小さな家族だから、毎日こうやって集まっているんだ、と。
確かにキャンプには、かなり大きな家族もいる。
一族郎党、という言葉が似合うような、巨大なファミリー。

でも、そういう家族に比べると、
2,3世帯しかない、彼の家は小さい。

いつも、彼はこちらの仕事のことを気遣ってくれる。
家族みたいなものだから、いつでも困ったら声をかけてくれ、
と言ってくれる。
そういうことを言ってくれる人は他にもいるけれど、
長く一緒に働いてくれていた彼の言葉は、
もっと重く、温かく感じられる。

彼が違う仕事を始める決心をした時、
残って欲しかった私は、恨めしそうに、
どうして転職したいのか、尋ねた。

キャンプの中でも、新しい能力や技術を学べる場があるのならば、
チャレンジしていきたい。
状況や環境はどうであれ、
自分を進歩させていかないとな、と思って。

そう話した彼を、私は心から尊敬している。

昔、ダマスカスで日本紹介の展覧会のようなものが、あったそうだ。
そこへまだ、小さかった彼を、ご家族が連れて行った。
日本人に顔が似ていてねぇ、と
おばあさんが面白そうに話す。
会場の椅子に座らせたら、日本の子みたいだった、と。

今はすっかり髭も濃くなって、キャンプの暮らしに肌の焼けた彼から、
いまいち上手く想像できないのが、顔に出てしまったのだろう。
子どもの頃の写真やら、過去の証明書の類を、
持ってきて見せてくれる。

確かに、小さな頃の彼の顔は、
髪の色も顔の彫りも薄くて、真面目さが際立った、神妙な顔をしていた。

娘さんは二人とも、奥さんに似ている。
色が薄い奥さんに似て、良かったねぇ、などと
おばあさんたちは二人で、ニヤニヤしていた。

日本の奨学制度の話を聞いたんだけど、あれは行けるのかな、と
彼は尋ねてくる。
学位的には問題ないが、英語が必須なので、
まず英語を勉強してから、日本語も勉強しないといけない、と
説明をする。

そうかぁ、じゃあまずは英語なんだな、と
くしゃっと笑いながら言う。
彼のお姉さんは、カナダに第三国定住で移っている。
あと1年したら、カナダ国籍が取れるんだ、と
嬉しそうに話していた。

彼女が発ってから、もうそんなに時間が過ぎていたのか、と
思う。

私たちが話をしている脇で、
すっかりお姉さんになっているかと思いきや、
家の中でだけお転婆の感が出てきた、娘さんが
お皿のケーキを食べようとしたり、
遠くにあるジュースを取ろうとして、
行儀が悪いと、叱られる。
2歳の下の子は、携帯電話をいじっていて
それを上の子に取られて、半泣きになる。

久々にカメラを持ってきていたので、
写真を撮っていいか尋ねると、娘さんは
決めのポーズをいくつか、披露してくれた。


キャンプのキャラバンは、どこの家庭に伺っても
窓が小さくて、日中でも薄暗い。
最近では、ソーラーパネルやジェネレーターを持っている家もあるけれど、
最低限しか使わないから、
日中に部屋の明かりをつける家は少ない。

あとで確認してみたら、ブレている写真が多かった。





外は、白っぽい砂に反射して、空のほかは
どこも、明るすぎる。
いつも、キャラバンから出るたびに、
目がくらくらする。

家のある通りを、いい加減覚えたくて、
目抜き通りからどこを曲がればいいのか、
写真を撮っておく。
ウェディングドレスのお店が、路地の向かいにあった。
あの店の名前はなんて意味なの?と訊くと、
天国にある、花の溢れた美しい場所だ、と
教えてくれる。

今週末には、若いスタッフの婚約式もある。

花に溢れた、美しい場所は、
キャンプの中のどこにも、存在しない。

砂にまみれた看板とは異なり、
ウェディングドレスのお店の窓ガラスは
内側はきちんと掃除されていて、
赤、ピンク、黄色と、花のように鮮やかな色彩が
暗い店内で、着られるのを、待っている。

まだ小さな娘さんも、いつかあんなドレスを
着る日がやってくるだろう。

その時、彼女はどこにいるのだろう。




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