2018/12/18

願いは、自分のためではなく


人の温かみが、身に沁みいる、一時帰国だった。

なんて、みんな優しいんだろう、と
バカみたいに、ありがとうございます、ばかり
繰り返していた。

それしか、云えることが、なかったからだ。

そして、同時に、
全く何も返せるものがない、という事実に、
毎日、呆然としていた。

世の中には、感謝の数と同じぐらい、もしくは、それ以上に
いろいろなものを、ちゃんと与えられたり、返せる人たちがいる。
どうしたら、そんな人になれるのか、
私は、さっぱり分からない。


思い返してみると、自分のことばかり考えていた。
何かしら、表現の仕事をしていた昔は、特に、
常に自分の中にある、くだらなくて卑小な思いを、
どうやって、普遍的ななにものかに昇華できるのか、ばかりを
考え続けていた。


奇しくも、今、
私は、私ではなくて、他の人のための何かしらになる、
かもしれない仕事を、させていただいている。

それでもなお、この仕事を通じて、どんな人間でありたいのか、を
どこかで考えていたけれど、
最近、そんなことを考える余裕がなくなってきて、
やっと、欲が少しだけ、なくなってきた。

それは、とても、いいことのように、思える。






去年の冬、ワディ・ラムで、大量の毛布に包まって、
たくさんの流れ星を見ながら、
ありとあらゆる欲しいものを
思い浮かべて、願っていた。

すざまじい欲だな、と、
冷え切った頭が、冷静になって
ものすごい自己嫌悪に陥る。

今自分のために願ったものが、
流れ星と一緒に流れていって
私の知らない、どこかの誰かに、届いたら。

それは、何とも素敵な考えだった。

その夜、とことん自分の欲しいものを見つめた。
どれもこれも、叶わなくて、なかなか切なかった。

それから、それらが、
知らない誰かに届くことを妄想した。

勝手に、少し幸せな気持ちになった。



何にもなくてからっぽだし、
物理的に生み出せるものはないから、
私は、とにかく、
たくさんの、私の知っている、私の知らない、お世話になった方たちへ
漠然とだけれど、何か素敵なことがあるように、
願いたいと、思っている。

自分が細くて白い糸みたいになって、
しまいに、なくなってしまうぐらい、
本気で、ただただ、願いたい。


そんな靄のような願いについて、思いを馳せるぐらいなら、
真面目に仕事をしろ、という話だけれど。

願うことで、ふわっと幸せな気持ちになったならば、
つまるところ、それは自分のため、ということになる。

結局まだまだ、私は、欲深い。


2018/12/01

とてつもない愛おしさは、さりげなく小さなおはなしの中に




だって、ロバのおはなしだから。
実に10年ぶりに往った古本屋で、
即決する。





子ロバはアラビア語で、コル、という。
この言葉の響きが、とても好きだ。
跳ねるように歩む、子ロバ特有のしぐさと動きを
よく表しているように、思える。


この作者もきっと、ロバのことがすこぶる、好きなんだろう。
初めて会ったロバとロバは、鼻をすりあわせることとか、
子ロバどうしが一緒に、走りまわるとか、
誰かのために、とてもがんばるところとか、
ロバのロバらしさを、よく知っているから描ける、描写がある。

でもなによりも、この絵本を
とてつもなく、愛おしく感じたのは
安心する絵本のお話の作り方を、きちんと踏襲しているところだった。
話の展開が明確で、単純であること。

そして、話のきっかけとなる人物が、
ちゃんとお話のはじめと最後に出てきたり、
ちいさな、一見どうでもいいと思えるような描写が
丁寧に描かれていたり、
ことばの繰り返しが、大事なところにはきちんと使われていたり、
視点がつねに、子ロバから離れなかったり。


そして、石井桃子によって、大切に選ばれた、言葉がある。

歳ばかり取ってしまったわたしでも、
しみじみといいなぁと思うのは、
限りない、この安心感ゆえだ、と、気づく。

親御さんが子どものために、と
何か選んであげるのであれば、
発想力を沸き立てるものも素敵だけれど、
こういう、限りなく安心する、
ささやかなものへの愛情に満ちた本の良さもまた、
子どもは敏感に感じられるだろう。



奇しくも、似たような2頭のロバの話を
昔絵本で作ったことがあった。
「黒いロバ」、というタイトル。

孤独な黒いロバが、ふと1頭の白いロバと出会う。
飼い主に連れられた白いロバは、
結局は、往ってしまう、という話。

ロバが好きすぎて、大量に描いたロバの絵を
部屋に吊るしていた。
友人が来て、勝手に絵の順番を入れ替えて、
話を作り始めた。

その話が気に喰わなかったので、
では、自分で作ろう、と、作った絵本だった。

実にセンチメンタルで、全くストーリーは好きではないのだけれど
手持ちの絵を使って作れる話が他に、思いつかなかった。

他人の好みは分からない。
アラビア語と日本語両方で話を書いてあるので、
プレゼントにあげていたら、
どうも、気に入っていただける。





その話のロバたちも、
鼻をすり合わせていた。
わたしもまた、そのロバのしぐさがとても、好きだ。

もしロバがあんなに大きな声で哭かなかったら
絶対ロバを飼っているのに。