2010/11/21

現れるものもの

家族がホーチミンに来ていた

久しぶりにガイドブックを開き
往ったことのなかった店を訪ね
通ったことのない道を歩き
新たな街の姿を見る

知っているはずの街だったのに
観光客の視点から
今までは気にもかけなかったものや人が
突然自分の前に現れる

忍耐強いドライバー
美しい刺繍の布
動物園へ通じるまっすぐの道
よく熟れたマンゴー
靴磨きの少年

それから、自分の基になるものも現れる
家族それぞれの姿の断片が
一つ一つ自分の中にもあって
いいところも悪いところも
いっしょくたになって
標本でも見るように並べられ
そして、入れ物からこぼれ落ち
ころころと転がっていった

振り返れば、おかしい

空港へと向かうバスを見送ると
バスが走り去っていった後の
見慣れたドンコイ通りに一つ、また
新しい記憶が残される
街と、そこに住み、街に留まる自分の姿

2010/11/13

不可思議な風景



まだ、夕方から驟雨がやってくることも多いのだけど
朝にはすっかり晴れ渡り
青くて雲のない空に風が吹き渡る

室内から空を見ると
お正月の空のようで
こんなに暑いのに
視覚が
きりっと身の引き締まる
冬の、よく凧でも上がりそうな
風の強い日を呼び起こす

最近外の仕事が多い
長袖を着ても
首元は真っ黒だ
よく焼けてしまった手の甲と
空を交互に、見る

2010/11/08

詩となる映像


とっておきのものだったから
いつ見ようかタイミングを伺っているうちに
いつの間にかもらってから
半年以上経っていた

テオ・アンゲロプロスの「永遠と一日」を見る

簡単なストーリーと印象に残る言葉
それからいくつもの映像だけを記憶していた
何年ぶりかに見る映画は
新鮮に映る場面も多かった

ブルーノ・ガンツの笑顔が
もう、どうにもならないほどに切なくて
どの場面で笑っても悲しくて
不法入国をした少年の笑顔よりも
底知れなかった

一つ一つの映像が長い
ゆっくりと流れてゆく映像が
そのまま一つの言葉のようだった
もしくは、詩の1行

意味が広がってゆく
映されているもの以上の何かが
じわりと染みだして身体に広がってゆく


それらを味わうのにちょうどいい
一つの風景に対する、時間の長さ