今、ダラットにいる
夜は虫が鳴く、日本の10月初旬の気候の土地だ
涼しいのではなく、もう寒くて
でもその感覚が、限りなく懐かしい
ここへ来た理由は一つだけだった
須賀敦子の随筆の中に
若き日の須賀敦子のよき話し相手となった
修道女のことが書かれている
その、マリ・ノエルという人が
べトナムが独立するまで
この土地の修道院にいた、という記述があった
だから、なんだ、と、自分でも思う
だけれど、来なかったならば、後悔しただろう
ダラットには2つの教会がある
一つは、街の中心にほど近い
湖から見える教会
ゴシック建築で、塔のてっぺんに風見鶏があるので
みなChicken Churchと呼んでいる
ステンドグラスがきれいで、町の喧噪の中なのに
どこか静けさがある教会だ
もう一つが修道院も併設された
Domaine De Marieだ
街中からは離れた、小高い丘の上にある
手入れのよく往き届いた花畑のある
雰囲気の温かい教会だった
修道女たちが作ったレース編みの服や食べ物を売るための
土産屋もある
べトナム人の観光客がたくさんいた
クリスチャンもそうでない人も
多くのべトナム人がそうであるように
写真を撮り、話をし、よく買い物をしていた
フランス語が話せないので
少しでも何か手がかりがないかと思ったが
聞き出すことができなかった
しばらくミサの賛美歌を聴いていた
何が知りたいのかもはっきりわからないことに気がついて
やっとあきらめがついて、立ち上がる
教会の敷地のすぐ外にも土産物屋が並んでいた
昔実家でよく見たのとそっくりなイチゴのジャムが
大きな鍋に入っていた
イチゴのスープみたいなもの
食べてみたかったけれど
今度はベトナム語が話せなかった
じっと鍋の中のとろけそうなイチゴを見て
それからやっと、今度こそ丘を降りた
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