往ったからといって
何が変わるわけでもないと分かっている
でも、とにかく往かなくては、と
訳もなく思わせるものがあった
バスと電車を乗り継ぎ、名取
閖上へ往く
最寄りの駅から
雨に降られて歩く
なんで今更、来たのですか、と
雨がどこか怒っているように思えたのは
単純に疲れていたからだろう
お世話になったNPOのスタッフの方々は
温かく迎えてくださった
事務所の灯りに、ほっとした
閖上で被災した女性たちが
胸の中の思いを言葉にできるように、と
編み物の場を、作っていた
せっかく作るのだから
少しでも活力が出るように
できあがったものは販売する
編み物をしながら
近所の人の最近の様子や
政治のこと、取れた野菜のこと
畑のこと、津波のこと、を
話し、また、編む
どなたかと一緒にやってきた小さな犬が
うずくまったり、しっぽをふったりして
足元をゆきかう
仙台空港まで歩いた
間近に飛行機が見える
飛び立った飛行機は
あっという間に、灰色の雲の中に消えた
一体どこまで、波が来たのだろう
田んぼの中をまた、歩く
閖上の土地を
閖上で被災した方と一緒に回った
何度も見た、灰色の水と車と家の
訳のわからないVTRの跡が
目の前に広がる
青く茂った草が低く続く
真っ平らな土地だった
家の基礎さえも残っていなくて
土地を仕切る塀だけが残っていた
お盆が近いから、と
お墓の周りの草刈りをするご夫婦と会う
お墓でさえ、流された墓石を何とか
元の土地に戻した、という
随分と海に近い土地だった
土地の緑をそのまま
薄青い灰色にしたような
のっぺりとした海が続く
生徒が亡くなった中学校は
校章に躍動感のある波の模様が使われていた
土地の方にとっては皮肉なのかもしれないけれど
その図柄は素敵だった
中学校の碑の前には
きれいな花が供えられて
草刈りをしたり
側溝を掃除したり
土地に戻るか戻らないか逡巡したりしながら
その後、の暮らしを
生きていらっしゃった
当たり前だけれど時間は続いていて
それぞれがそれぞれの思いで
今と、その先を
暮らしながら、考えている
見に往けて、何もできなかったけれど
やはり、よかった