2011/11/25

財布をなくす



仕事の材料を買いにスークへ出かけた
大きな布が欲しかった

でも、出かけてみたら
暖かそうなものがたくさんあって
目移りする
毛糸の帽子、毛糸の手袋、毛糸のマント

毛糸の手袋を1JDで買って
本題の布を探し始めたが
なかなか見つからない

ぶらぶらと布探しを続けた

これを買ってもいいかなあ
そう思って財布を探し、愕然とする

いつもは財布の在処を気にしているのに、、、

だいたいなくす時はそういうものだ

今日は殊に人ごみがひどかったから
落としたよりはすられた可能性の方が高かった

これでは買えないどころか、家に帰れない


買った手袋を払い戻してもらおう
手袋を買ったお店へ往く

お店のおじさんに財布をなくしたことを云う
すると、おじさんは何か色々と説明してくれた
残念ながら分からない
ただ、スークの真ん中にある小さなモスクへ往け
これは、分かった

モスクにはおじいさんたちが居た
説明すると、そうかそうかと話を聞いてくれる
そうか、ここは落とし物保管場所ではないんだ
少し落胆した

赤いハッジをかぶったおじいさんがおもむろに立ち上がった
ちょっと待ってろ
おじいさんはモスクの中に入っていった

そして、アザーン用のスピーカーで放送を流してくれた

日本人が赤と黒の刺繍の入った財布をなくしたぞ
誰か見つけた人はもってきてください

きっと、青いよく晴れた空と
広い青空スークに響き渡っただろう


ヤバニーヤ、と繰り返されるたびに
何とも身の縮む思いをする
おじいさんは、やったぞ、という顔でモスクから出てきた


ただ、待っても財布はやってこなかった
来ても中身はないよ、おじいさんは云う
わたしもそう思います


もう一度払い戻しをお願いしに
手袋のお店へ往った
スウェーレに住んでいるんですが
バスに乗れないんです
手袋を会計の台に置いてもう一度お願いした
お金をください

それは持っておきなさい
おじさんは、手袋を袋にしまい直して
1JDをくれた

ほんとにありがたかった
だって、おなかがすいていたし
もう、探しまわって疲れていたから

たくさんお礼を云ってバスに乗った

来週また、おじさんにお金を返しに
スークへ往くことになった




2011/11/15

歩いてみる

やってみよう、と長らく思っていた
仕事場からの帰り道を歩いてみる


google earthによると
標高差500メートルを越える
坂道を下って
毎日出勤している
距離にして8キロ強


出勤はバス
坂道を転がり落ちるようにして
バスは目的地のバカアキャンプへ往く
毎朝少し、耳が痛くなる
ものの10分ほどで500メートルも下るからだ


その道を登る
久々の長い散歩は
正直少し、つらかった
ひたすら登りなのもそうだけど
車の交通量も多くて
排気ガスをまともに吸うことになってしまうからだ


この道は苗木屋さんが多い
素焼きの鉢や水差しの並んだ店もある
いつもバスの窓から見ていて
気になっているものがたくさんあった
だから、カメラを持って歩く


空気はすっかり冷えて
特に風が強かった
ただ、苗木屋さんの店先には
今からもう冬なのに
マーガレットからブーゲンビリア
バラやパンジー、そして菊まで
さまざまな鉢植えが並ぶ


ヨルダンで一番気に入っている木がある
名前は分からないけれど
北部では比較的よく見る
色々な形と大きさのその木がいたる所にあって
徒に写真に収める


アパートメントの近くのロータリーについた頃には
すっかり疲れてしまった
ロータリーの先もまた
坂道だ


考えてみたら
こちらの人は足が速い
特に男性は
私をさっさと抜かしてゆく
みんな坂道に慣れているのだ


いつもだったら躍起になって
抜かされるまい、と歩いているけれど
今日はもう疲れてしまって
男の人たちのすり減った靴底を見ながら

のそのそと家への坂道を登った

2011/11/09

国境

ヨルダンの北部、イスラエル、シリアのボーダー


イスラエルとの国境は枯れた川の跡がある渓谷だ
谷間の急な斜面にしがみつくような道には
たくさんのcheck pointがある
銃を抱えた兵士がいる
携帯をいじっているpointもあれば
パスポートの提示が義務づけられているpointもある
いくつもの見張り台


高いフェンスと有刺鉄線
シリアとのボーダーには兵士と遮断機がある
イスラエルとのボーダーにかかっていた鉄橋は
崩されていた
橋から伸びる道は草で覆われて
遠目からではもう、よく見ることができない




遠くにはガリラヤ湖が見える
周囲には白い高い建物が連なる
ヨルダンならばアンマンにもないような
近代的な建物の影だ


渓谷の先の台地はそのままゴラン高原に続く
ヨルダン側からでは
ただただ、何もない緩やかな丘しか見ることができない
ヨルダンの斜面と同じように
うねる道をぽつぽつと、車が走る


渓谷の底、川の跡は緑が深い
バナナの畑や真っ赤なブーゲンビリア
高いナツメヤシの木
その向こうに、ゴラン高原のはしっこが立ちはだかる


3つの国の国境の土地も今は秋で
南国の植物たちとともに育ったオリーブの実が
収穫の最盛期だ
何とか犠牲祭で食べられることなく生き延びた
ヤギや羊たちが
まだ残った草を懸命に食べながら歩く


日はすぐに傾き
影は濃い
空はずいぶんと青い



アンマンなんかよりずっとあたたかで
おだやかな秋の田舎の風景







2011/11/07

ダナの谷






休暇に入った
仕事が始まったから初めての長い休み

ダナ公園へ往ってきた
ヨルダン南部、死海とタフィーラの間あたりにある
岩ばかりの山の中


ダナ村を出発するときの標高は1200メートルほど
ゴールとしたロッジまで1000メートル近い標高差を
15キロほどの道のりでひたすら下り続ける


周囲をほとんど生き物の気配が消えた山に囲まれた
水のない川の跡を辿るように道は続く
ツバメに似た飛び方をする鳥が空に居る

それだけ

よく見ればトカゲやてんとう虫も居る
けれども
緑の色も褪せた植物もまばらだった

砂利に足を取られないように注意して歩く
足音だけがよく、響いていた


5時間近く、歩き続けた


ゴールのロッジはRoyal Society of Conservation of Natureが運営している
エコ・ロッジだった
夜の灯りはろうそくだけ
客はたくさんのろうそくに囲まれて
食事をとる


そう、ずっと昔はこうして
歩き疲れて家に帰り
暗い灯りの下で食事をとって
暖炉の周りでお茶を飲みながら話でもして
そして、朝までよく眠ったのだろう


西洋人ばかりの客たちが
わずかな灯りの元
色々な言葉で談笑している様子を
昔の映像でも見るように眺めた



久しぶりに、観光客の気軽さで
この国を見られたような気がする