2009/09/16

ことばの壁とおかしみ




単純に努力不足なのだが
この国の言葉がさっぱり話せない
最低限でどうにかしようと思っている
そして、無理矢理どうにかしてきたような気がする

多くの事は、その、最低限の語彙と英語で
今まで何とかなった
と云っても
何かを伝えたい、という意思は
日常会話のような高等次元ではなく
例えば買い物のときのように
互いの目的がはっきりしているような場面での話



よく、この国で旅行者は服をオーダーメイドする

してはみるが、旅行者と同じような
価格と店構えではもたないので
ローカルなお店へお願いをしてきた

初めから、そこまで信用できる店ではない
そう、聞いていたが
何度かお願いをするうちに
だんだんと出来上がりの期限が守れないようになってきてしまう

住んでいるところから
バスやタクシー、もしくは徒歩で
軽く1時間以上をかけて往くのだけれど
何だか申し訳なさそうな顔の店員が
ショウウィンドウの向こうに見える回数も増えてきた

ないから、来週にして
今日できるって、云ったでしょ
ないの。(たぶんお針子さんが)風邪で寝込んでいるのよ
分かったよ、じゃあ来週ね、絶対よ

などと云う会話を
2週続けて繰り返した。
さすがに、3回目はないだろう
そう思って店の前に立つと
やはり、申し訳なさそうな顔の店員がこちらを見ながら立ち上がる

むむっと、怒りも湧いてくるが
この人に云ってもしょうがない
怒ってもそれはそれで、申し訳ない

今度は、どんな云い訳なのだろう
そう云う思考へと、転換してみる

お金と時間を費やしてやってきたのだから
ただでかえってやるものか、と
出来上がりの確約を取り付け、さらに少し、意味もなく粘ってみた
ことばがほとんど分からないもの同士
何とか互いの思いを伝えたいが
私も意志が弱く
相手は調子がいい

しばらくの沈黙の末に
3人いた店員のうち
店長らしき女の人が片言の英語で云った

お父さん ベトナム人
お母さん 日本人

にこにこしながら、そう云うのだ

そんな訳がない
と、つっこむ気も失せる

こちらも笑いながら、そうなの、と答える
結局笑ってしまった

決して失笑にさせないところが
何とも云いがたいけれど
すごい技だと思う

そして私は来週も、その店へ往く

2009/09/09

善人の顔立ちをめぐって



なぜか必ず、どこの学校でも
音楽室には作曲家の肖像画が飾ってある
正直あまり好きではないし
絵も残念ながら、素敵では、ない

でも、それらの絵を見て育っているから
それほど音楽に関心のない人でも
バッハの顔とベートーベンの顔の区別ぐらいは、なんとなくつく
それらの絵によれば
バッハは福耳を持っていそうだし
ベートーベンは前のめりでしか歩けなさそうだ
意外と、サン・サーンスなどは
そこら辺の家具職人、みたいな感じだし
リストは少し、意地の悪い金融家にも見える
どれもみな、真剣な顔で
当然、笑いかけている絵などはないから
どうも、一生そんな顔をして
苦しみにもだえながら曲を作っていたような感じが、する

ブラームスなどは大好きだけれど
どうにも険しい顔つきで
とても社交家には見えない
きっと、いい天気ですね、などと云ったら
一瞥を食らい、返事をしてもらえなさそうな気がする
もしくは、聴こえていない



先月にバルトークに関する本を読んだ
それから、バルトークが表紙の楽譜を手に入れた
弾く前に、必ずその顔を見る
くすりともしていない、至って真摯な顔つきなのだけど
どうも、人が良さそうな感じがする

実際にどうだったか、
残念ながらその本には詳しく書いていなかった
でも、どうにも曲の中には
独特の慣れない音の組み合わせや
飛び方があって
変に技巧的だったりというわけではないのだけど
そして、どちらかと云ったら、実直なものが多いのだけど
どこか不思議に凝り性なところがあって
さっぱりその底にあるものを
掴める気がしない

やはり、見た目の判断は
あてにならないのかもしれない

2009/09/08

空のようすのこと


昨日、朝から雨だった
こちらへ来てから、2度目の朝だった

今日も朝は曇っていて
いつもなら真っ青か、鰯雲のなびく空に
白や灰の雲が垂れこめていた



冬の入り口の空に、似ている

コートを着込んでも寒くて、首をすくめ
広がった襟元をぎゅっとつかんで
外を歩く
きりっとした空気が無性に懐かしくなる



身体の芯に透明で鋭い糸を、すっと張ったようなあの緊張感を
私は、無性に欲している